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朝から晩まで2525ならぬ2424(ニヨニヨ)している坊主のブログ。ニコニコ関連記事を中心にアイマスとかボカロとかの感想を言ったりします。 主にニコニコRPG関係、ニコマス動画についてご報告させていただきます~。あとデフォルトで遅レスです… ご了承いただきたく(´・ω・`)

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自己紹介:
朝から晩までニヨニヨしているダメ僧侶。最近怖いことは毛根が死滅すること。SFとヤンデレとみっしりした漢字がとても好き。
閣下をこよなく敬愛しておりますが、今だハコ購入に至らない僧侶に愚民を名乗る資格なぞ無いため、遠くから密かにお慕い申し上げております…
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 たぶん私は孤独というものがなんなのかを知っている。
 それは、私の誕生日のことだ。

 弟の誕生日は、たしかに存在する。あの子が死んでから初めの年、両親の振る舞いはこっけいにも哀しいものだった。あの子が欲しがっていたサッカーのシューズが墓前に供えられ、いつのまにか冷蔵庫にあらわれていたケーキにはあの子の年の本数の蝋燭が添えられていた。
 当然のように誰もそのシューズに触れることも無く、ケーキは冷蔵庫のなかでゆっくりとかびに覆われ、ひからびていった。私はどれほどあのケーキを捨ててしまいたかったことか。けれど、怖くて触ることすらできなかった。冷蔵庫の奥へ、奥へとおいやられていったそのケーキの箱がいつの間にか姿を消したとき、私は心から安堵をおぼえ、そんな自分をそれよりもなお憎んだ。
 あの子の誕生日というものは、たぶん、そんなものだった。幸福とぬくもりがあるのと同じだけの形の穴がぽっかりとそこに開き、その空虚のかたちを思い知らされた。その空虚には名前が無かった。そこをうめるために後悔や憎しみが用いられたのはその後のことだ。

 私の誕生日は、それとはまったく違う。
 ……やっぱり、私の誕生日は、何も無かった。ただそこにぽっかりと穴が開いていた、それだけが、あの子の誕生日と同じだった。
 その日が誕生日だ、と気付いた日、私は何かが起こるのではないかとそれでも期待をしていた。けれど、学校から帰り、作りおきの夕食を食べ、それから両親が帰ってくるのを居間で待ち…… それだけ。
 単純に、忘れられていたということだったのだろう。あの頃の我が家のさまざまなごたごたを思うと、おそらくほかに理由なんて無い。
 数日後、実に不自然な感じで父が、それから母が、私にそれぞれお小遣いをくれた。私はそのお金でケーキを買おうかと一瞬思った。一瞬だけだった。私は店頭で目に付いたクラシックのCDを買った。同じ収録音源が違う全集に入っていることに気付いて、そのCDは開封しないまま永遠にお蔵入りになった。

 765プロに入り、履歴書に書くまで、私は自分に誕生日があったということすら忘れていた。違う、忘れようとしていた。
 人間は、忘れたいことがあるとき、そこから眼をそらすために他のものを凝視するほかない。
 私は世の中に孤独以外のものがあることを忘れようと必死だった。必要なものは、たぶん、酩酊だった。何かほかのものに必死で打ち込み、中毒し、嗜癖とした。それが歌だったということを否定はしない。
 私はどうしようもなく弱い人間だった。冷蔵庫の中でひからびていくケーキを忘れるため、そらぞらしく封筒に入れられた五千円札を忘れるため、開封しなかったCDを忘れるため、私は、ヘッドフォンを手放すことができない。

 春香から声をかけられたのは、そんなとき。

「ねね、千早ちゃん」
「何? どうかしたの…… すごく嬉しそうね」
「え? そう?? えへへ……」
 収録が終わって楽屋に居合わせたとき(ローカル局の小さな音楽番組だった)、春香はまだ衣装を着たまま、化粧をおとしている私の顔をのぞきこんできた。鏡越しに見る春香の笑顔。なんだか、何かをたくらんでいる感じ。私は眉を寄せた。
「何かいいことがあったの? 誰か、スタッフの方にお食事に誘われたとか」
 だったら言っていいわよ… と私はいうつもりだった。春香の趣味はメール友達を増やすことだ。くだらないとは言わないが、理解しがたいのは間違いない。
「違うってば。せっかく千早ちゃんと一緒なのに、誰かとご飯になんていかないもん。そうじゃなくってね、前、私が千早ちゃんにヘッドフォン選んでもらったときのこと憶えてる?」
「ああ…… あのこと」
 別に、たいしたことじゃない。
 春香が、美希のなにやらのお祝いに、ヘッドフォンをプレゼントしたがっていた、という話だ。
 この仕事をしていれば、機能のいい音響機器は仕事の必需品のようなものだ。けれど、美希のライフスタイルに大掛かりで機能に優れたヘッドフォンは逢わない。かといって、単なるおもちゃのようなものを使わせるのは私の(先輩としての)プライドが許さなかった。カタログやPCの画面を見ながら予算と実際の兼ね合いを考えるのは、なかなかに面白い作業だった。
「美希は喜んでいた?」
「すっごく! いつも使ってるみたい。音がいいって喜んでたよ」
「そう。良かった」
 少し嬉しい。けれどいつもの癖でつんとした風に答えてしまってから、私はちょっとばかりの自己嫌悪と共に、鏡の中に向き直った。
「さすがに千早ちゃんは音楽に詳しいもんねえ」
「もしも音質だけを追求するんだったら、もっと適切なモデルもあったのだけど……」
 春香は小さなバックに入れて持ち歩けるサイズ、可愛らしくてスマートなデザインに固執していたから、性能重視のモデルを選び損ねた。でも、たぶんそれが正解だったのだろう。そういうものだ。
「でね、でね。続きなんだけどね」
「何」
「千早ちゃん、ちょっと眼をつぶって?」
 ……何をする気?
 言われたとおりに―――少し戸惑いながら―――眼をつぶった。少し春香の手が髪に触れた。どきりとした。何故だか分からなかった。
「はい、眼あけて!」
 私は見た――― なんだろう、これ。ヘッドフォン?
「春香、これ……」
「可愛いでしょ。あのね、美希の友達に頼んでもらったんだ」
 にこにこしながら、春香は言った。私は信じられない思いで耳に触れた。正確には、そこにつけたヘッドフォンに。
 シャープだが無骨なデザインのはずだった。けれど、きらきらとたくさんのガラスで飾られて、銀色のチャームをつけたヘッドフォンは、まるで髪飾りのようにすら見えた
「これ……?」
「美希に昔紹介してもらったお友達でさ、デコが好きな子がいたんだ。でね、千早ちゃんが欲しがってたヘッドフォン、デザインがちょぉっと女の子らしくないなーって思ったから、デコヘッドフォンにしてもらったんだよね!」
 涙の雫、流れ星、雪の結晶。
 きらきらと光る、まるで雪の女王のティアラのようなそれを、私は、信じられない思いで見た。まるで魔法だった。
「…すごい」
「ね、きれいでしょ? それにカッコいいし。千早ちゃんらしいかなーって!!」
 春香は、うれしそうに笑った。指先でヘッドフォンをつついた。
「ほら、こっち側に七つ星があってね、こっちにも。あと、後ろにもう一個つけてるんだ」
「七個、それが、ふたつ?」
「千早ちゃんの年の数。それでね、誕生日になったら、これとおそろいになるペンダントをプレゼントしようと思ってます!」
 春香はえへへと嬉しそうに笑う。私は弾かれたように振り返った。信じられない思いで春香を見上げた。
「どうして?」
「へ? どうしてって… 千早ちゃんに、ほんと似合いそうなの見つけたんだもん。でも、なんにもないときにプレゼントって、あげられたくてもあげられないじゃない?」
 春香はくるりと眼をまわしてみせた。おどけるように。
「だからね、これはいままでわたしが千早ちゃんに会うまで分の誕生日プレゼント。あと、次に誕生日がきたら、そのときほんとのプレゼント。そういうことにしといたら、受け取ってくれるかなぁって思ったの。どう? けっこう、わたしってば賢くない? …なーんて」
 何がなんだかわからなかった。声が出ない。
 ただ呆然と座っているだけの私は、鏡の中で、信じられないほど冷たく見えた。春香がしてくれたことに大して何も思っていないみたいに。笑いたかった。何か言いたかった。でも。
「ちーはやちゃん」
 春香が、後ろからぎゅっと私に抱きついた。髪に顔をうずめる。私は心臓がきゅっと縮み上がるのを感じた気がする。
「わたしねえ、誰かのことお祝いするの大好きなの」
「……どう、して?」
「幸せなんだもの。その人のこと大好きなんだなぁって自分に確認して、ほんとにうれしくなるんだから」
 だから、と春香は言った。
「千早ちゃんを大好きな分、今年だけだと足りないから、いままでの15歳分全部をまとめてプレゼントしたの。ねぇ、もらってくれる?」
 
 ぽつん、と私の中に何かが落ちた。
 誰もいなかった、何もなかった、空っぽだった私の誕生日たちを、何か、あたたかいものが埋める音だった。

「…はるか」
「んーん?」
 私は、体の前に回された春香の手を、ぎゅっと、握り締めた。
「ありがとう」
 眼を閉じた。声が、ふるえていた。
「うれしい……」
 えへへ、とまた春香が笑った。甘える猫みたいに、私のうなじに顔をこすりつける。私は黙って春香の手を握り締めた。あたたかだった。涙が、出そうだった。



***********


 千早さんはヘッドフォン・チルドレン。


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